この前公開したヒーローショーの続編のようなもの。こちらは書いただけで、公演には至りませんでした。読めばその理由もわかると思います。
ロバート(声だけ):俺様の名前は、キ・石井・ロバート。親しい友人からはいっちゃんと呼ばれている。そして職場では、俺様はこう呼ばれている。(タメを入れる)ロバート伯爵、と。言うのが遅れたが、俺様の仕事は、悪の組織の幹部だ。今日も俺様は正義のヒーローに倒されて、ヘトヘトに疲れきった身体を引きずりながら家に帰ってきた。
(モノローグ中に幕が開く。舞台にはロバートと、その妻・みち子と、息子のゴリ男)
ロバート:ただいま。
ロバート:おい、みち子、ただいま。
みち子:ご飯、そこ。
ロバート:あ、ああ。
(椅子に座りながら、ゴリ男のほうを見る。ゴリ男はゲームをしている)
ロバート:ゴリ男よ、今日の学校は、どうだったのだ?
ロバート:おい、ゴリ……
みち子:ゴリ男(ロバートのセリフに被せるように)、もう寝なさい。
ゴリ男:もうちょっと。
みち子:さっきもそう言ってたでしょ。もう寝なさい。
ゴリ男:はーい。
(みち子とゴリ男、退場)
(ロバート、ご飯を見る)
ロバート:はあ、鳥の唐揚げか……。
(幕閉まる)
ロバート(声だけ):近頃は、いつもこうだ。妻も息子も、私の相手をしてくれない。悪の手先をしている私に、愛想を尽かしているのだ。今の私にとって、家は、ただ帰って寝るだけの場所になっていた。
(幕開く)
(ゴリ男とイジメっ子AB入場)
イジメっ子AB:やーい、やーい。
ゴリ男:うわーん。
イジメっ子A:おいゴリ男。お前の父ちゃん、悪者なんだってな。
イジメっ子B:この間ヒーローに倒されてるの、見たぜ。
イジメっ子AB:ダッセー。
ゴリ男:僕の父ちゃんはダサくなんかない! ヒーローより強いんだぞ! 一対一なら負けないんだぞ!
イジメっ子A:でも最後はいっつも負けるじゃんか。
イジメっ子B:そうだそうだ。いっつも負けてるぜ。
イジメっ子AB:ダッセー。
イジメっ子A:ゴリ男、お前もやっつけてやる。
イジメっ子B:よーし、正義の必殺技だ。くらえ。
イジメっ子AB:さまーすらっしゅ。
イジメっ子A:おいやられろよー。
イジメっ子B:空気読めよなー。
イジメっ子AB:つまんねー。
ゴリ男:う、うるさい!
(ゴリ男、イジメっ子に殴りかかる)
イジメっ子A:うわ、こいつ。
イジメっ子B:なにするんだ。
ゴリ男:うわーー!
(幕閉まる)
(しばらく声だけ)
スカルキング:おい、聞いたか? ロバート。
ロバート:なんのことだ? スカルキング。
スカルキング:フランケンのやつ、ついにリストラされたらしいぜ。
ロバート:そうか……。まあ仕方あるまい。あやつは技らしい技も持っていなかったからな。
スカルキング:俺たちも他人事じゃないぜ。いつ派遣切りになってもおかしくねえ。
ロバート:そうだな。
スカルキング:やられ役は嫌だとか、休みを増やして欲しいとか言ってる場合じゃないぜ。忙しいだけ幸せだと思わなきゃな。
ロバート:全くだな。
ヒーロー:そこまでだ! ロバート伯爵!
ロバート:な、サマーレンジャーだと!? なぜ貴様らがここにいる!
ヒーロー:問答無用だ! 食らえ、必殺、サマースラッシュ!
ロバート:うがああああ!!
(幕が開く)
(真ん中でロバートが寝ている。端でゴリ男が寝ている。その反対側でみち子が椅子に座っている)
ロバート:は! なんだ、夢か……。やれやれ、夢にまで出てくるとは。休日くらい、ゆっくり休ませて欲しいものだな。
(ロバート、ゴリ男に気付く)
ロバート:ん? ゴリ男、今日は学校ではないのか?
ゴリ男:行きたくない。
ロバート:なぜだ。学校へ行かなくては、授業についていけなくなるぞ。
ゴリ男:行きたくない。
ロバート:一体どうしたのだゴリ男よ。
ゴリ男:(小さい声で)父ちゃんのせいだ。
ロバート:なに?
ゴリ男:(掛け布団を跳ね飛ばしながら)父ちゃんのせいだ! 父ちゃんが弱っちいから、僕が学校でイジメられるんだ!
ロバート:イジメ……だと?
ゴリ男:もういいよ。父ちゃんなんか嫌いだ! ほっといてくれよ!(布団をかぶる)
(ロバート、みち子のほうへ移動)
ロバート:みち子、ゴリ男のことだが……。
みち子:あなたは気にしなくていいのよ。
ロバート:そうもいかん。ゴリ男があんなに……
みち子:それじゃあ、どうするっていうの? ヒーローを倒すの? そんなことしたらあなたはクビよ? それでもいいの?
ロバート:それは……。
(沈黙)
ロバート:……ゴリ男が心に傷を負っているのだ。
みち子:あなた?
ロバート:息子の心より、大切なものなどない!
(ロバート、走って退場)
みち子:あなた!
(みち子退場)
(スカルキング入場。そのあとすぐにロバート入場)
スカルキング:おう、ロバート。今日は非番じゃなかったのか?
ロバート:スカルキング、聞いてくれ。俺様は、ヒーローを倒す。
スカルキング: ……そうか。
ロバート:驚かないのか?
スカルキング:俺もこの仕事やって長いからな。お前と同じこと言ったやつは、今までにもいたよ。
ロバート:そいつらは、どうなった?
スカルキング:一人だけ、本当にヒーロー倒したやつがいた。ヒーローの重役さんが来て、そりゃもうカンカンだったよ。魔王が菓子折り持ってく羽目になった。
ロバート:そうか……。
スカルキング:ロバート、俺は止めないぜ。だけどせめて、そうしようと思った理由を聞かせてくれよ。
ロバート:息子の心を守る為だ。
スカルキング:そうか、ゴリ男くんの……。だがそうすると、他の子供たちの心はどうなる?
ロバート:なに?
スカルキング:ヒーローを倒すってことは、子供たちの心を傷つけるってことだ。子供たちはヒーローに不信感を抱くだろうし、夢を失うかもしれない。俺たちの仕事は、子供の夢を守ることだろ? その夢を壊すことに、胸は痛まないのか? まあ、俺に胸はないけどな、ヨホホホ!
(ロバート、考える仕草。幕閉まる)
ヒーロー(声だけ):食らえ、必殺、サマースラッシュ! ……おい、食らえよ。サマースラッシュ! ……どうしたんだよ。ちょっとストップストップ! もっかいやるから、今度はちゃんとやれよ。行くぞ、サマースラッシュ!
(沈黙)
ロバート(声だけ):うがあー。
ヒーロー(声だけ):おせえよ!
(沈黙)
(幕開く)
(舞台にはゴリ男、みち子、ロバート)
ロバート:ただいま。
みち子:お帰りなさい。はい、ご飯よ。
ロバート:あ、ああ、ありがとう。(ご飯を見る)これは……! 俺様の大好物の人参じゃないか!(みち子を見る)お前!
みち子:聞いたわ。今日も負けてきたんですってね。ありがとう、私たちのために負けてくれて。
ロバート:いや、俺様は……。
みち子:いいのよ。いいの。私たちのためじゃなくても、それが私たちのためになってるんだから。
ロバート:みち子……。
みち子:ゴリ男も、きっと大丈夫よ。きっとあなたのことをわかってくれる。さてと、私、買い物に行ってくるわね。
ロバート:ああ。
(みち子退場)
(ロバート、ゴリ男のほうへ移動)
ロバート:(間を大きく開けて、ゆっくり話す)ゴリ男、聞いてくれ。俺様は、お前に申し訳ないと思っている。だが、お前は俺様のことを許す必要はない。むしろ嫌うべきだ。悪役である俺様を嫌って、お前は将来、立派なヒーローになってくれ。それが俺様の、(タメを入れる)俺様の、父親としての願いだ。
(ロバート、ゴリ男から離れて退場しようとする)
(ゴリ男、起き上がる)
ゴリ男:父ちゃんのばか!
ロバート:ゴリ男……?
ゴリ男:ばか、ばか、ばか……。僕が父ちゃんを嫌いになれるわけないじゃないか! だって僕は、父ちゃんが本当は強くて、優しくて、ヒーローなんかよりもずっと、ずっとかっこいいって知ってるんだから!
ロバート:ゴリ男……。
(二人で抱き合う)
(幕が閉まる)
【追記】
読んでわかるように、子供向けではありません。大人だけの会で公演する為に書いたのですが、メンバーの意気が上がらず、お蔵入りとなりました。
読み返してみると、暗くてしんどいです。公演できなくて良かったと思います。
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